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まんがのしくみ

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プロフィール:中野晴行(なかの・はるゆき)
1954年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。 7年間の銀行員生活の後、大阪で個人事務所を設立、フリーの編集者・ライターとなる。 1997年より仕事場を東京に移す。
著書に『手塚治虫と路地裏のマンガたち』『球団消滅』『謎のマンガ家・酒井七馬伝』、編著に『ブラックジャック語録』など。『マンガ産業論』で日本出版学会賞奨励賞、日本児童文学学会奨励賞を、2008年には『謎のマンガ家・酒井七馬伝』で第37回日本漫画家協会賞特別賞を受賞。2009年、「まんがのしくみ」連載を電子書籍化した『まんが王国の興亡 ―なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか―』をリリースしたのちに、『マンガ進化論』と改題して書籍出版。

まんが王国の興亡

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コラム 2009/09/24
第41回 アルチザン(職人)養成からアーティスト教育へ


 東京都現代美術館で開始中の「メアリー・ブレア展」(10月4日まで)を観てきた。ディズニー・スタジオでアニメーターとして「シンデレラ」、「不思議の国のアリス」、「ピーターパン」のカラー&スタイリングを担当してすばらしいコンセプト・アートを残し、ディズニーランドの「イッツ・ア・スモールワールド」のデザインなども手がけた才能あふれる女性アーティスト、メアリー・ブレア(1911~1978)の仕事のほぼ全貌を捉えた作品展。500点もの作品にはただただ感動するばかりだった。

 メアリーは、もともとファインアートの世界を目指していた人で、美術学校では「カリフォルニア・ウォーター・カラー」と呼ばれる水彩画を習得。在学中に夫のリー・ブレアと結ばれた。アメリカを襲った大恐慌のためになかなか仕事を見つけられずにいたリーが、ようやく見つけたアニメスタジオ(当時勃興期にあった)で、メアリーもアニメーターとして働くようになった。いくつかのスタジオでキャリアを積んだメアリーは、ディズニースタジオに入社。ウォルト・ディズニーにその独特の色彩感覚と造形力を認められ、その後のディズニーアニメの方向をある意味で決めてしまったのだ。

 メアリーのほかにも、アーティストや作家を目指す若者たちの多くが、アニメの世界に入り、アメリカのアニメの歴史に次々に新しいページを書き加えた。


 新しいメディアが若い才能の受け皿になる、というのは洋の東西を問わない。日本で言えば、半世紀前のテレビや、最近ではゲームの世界がそうだ。若者たちにとって新しいメディアの魅力は、働き手を求めていてとりあえず食えることだ。そして、昔からのしきたりやしがらみがない職場では自由に能力を発揮することが出来る。一方経営側には、若い才能が集まることで仕事が活性化される、というメリットがある。こうして新しいメディアは、オールド・メディアを過去の物にしていく。

 実は、かつてのまんが界もそうだったのである。たとえば、劇画界の長老であるさいとう・たかをは挿絵画家や映画監督を目指した時期があるし、故・石ノ森章太郎は小説家や映画監督、新聞記者などを夢見ている。彼らが映画をあきらめたのは、徒弟制が残る大きな映画会社に入らないと映画監督になるのは難しかったからで、結局は自分ひとりで紙とペンと墨汁さえあれば、どんな物語でも描けるまんが家の道を選んでいる。手塚治虫が医者になるつもりで、医師免許まで取ったのはあまりに有名だし、原作者の小池一夫は作家を目指して、時代作家の山手樹一郎に師事していた時期があった。若い頃に画家として将来を嘱望されながらも「画家は食えない」というのでまんが家になった故・古城武司のような人もいる。吉田秋生のようにデザイナーを目指しながら、まんが家になった人も多い。

 編集者にも、ジャーナリズムや文芸を目指しながら、図らずもまんがの担当になったという人が少なくない。30年くらい前までは、今と違って、子ども向けのまんが雑誌は出版社にとってはメインの仕事ではなかったのだ。入社前にはほとんどまんがを読んだことがなかった人が、のちにまんがのカリスマ編集者になったという例もあるのだ。

 全く別の道をめざしていてたことが、まんが家としての人生の中で決して無駄でなかったことは、この人たちの実績を見てもわかる。さいとう・たかをは映画スタジオのシステムをベースにしたプロダクション・システムをまんが制作の現場に持ち込んだし、手塚は医学生としての経験や人脈から『ブラック・ジャック』を描いた。小池の原作手法からは、日本の大衆小説の手法からの影響を感じることが出来る。

 ところが、今の専門学校や大学で行われているまんが家やアニメーターの育成は、どうもまんがやアニメの技術教育に偏りすぎているように思われて、ちょっと気になる。まんがを描く、アニメをつくるということばかりが強調されていて、職人は生まれてもメアリー・ブレアのようなアーティストは生まれないのではないか、と感じるのだ。

 日本人はアーティストよりもアルチザン(職人)を好むようだが、アルチザンばかりでは進歩がない。技術を深めることはできても、新しい発想を呼び込むことができないからだ。

 私は、携帯コミックや電子コミックの未来をつくるのは、今のまんがやアニメの技術を習得した人たちではなく、別の世界から入ってきた人たちになる、と最近考えるようになってきた。何の接点もないのでは困るが、まんがやアニメに近い、周辺のジャンルを志していた若者が、新しいメディアである携帯やWEB配信に参加して、思わぬ変化をもたらすのではないか、と思うのだ。

 それによって、携帯やWEBは飛躍的に成長していくのではないだろうか。



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