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まんがのしくみ

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プロフィール:中野晴行(なかの・はるゆき)
1954年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。 7年間の銀行員生活の後、大阪で個人事務所を設立、フリーの編集者・ライターとなる。 1997年より仕事場を東京に移す。
著書に『手塚治虫と路地裏のマンガたち』『球団消滅』『謎のマンガ家・酒井七馬伝』、編著に『ブラックジャック語録』など。『マンガ産業論』で日本出版学会賞奨励賞、日本児童文学学会奨励賞を、2008年には『謎のマンガ家・酒井七馬伝』で第37回日本漫画家協会賞特別賞を受賞。2009年、「まんがのしくみ」連載を電子書籍化した『まんが王国の興亡 ―なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか―』をリリースしたのちに、『マンガ進化論』と改題して書籍出版。

まんが王国の興亡

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コラム 2009/08/27
第40回 個人コレクターが支えるマンガ史料の蒐集のあしたはどっち?


 先日、マンガ関係のコレクターの飲み会があった。もともとは、大阪在住の楳図かずおコレクターのSくんが上京した機会に、3、4人が集まって旧交を温めていただけなのだが、類は友を呼ぶというのか、次第に人数が増えて今回も15人が集まった。

 Sくんは楳図かずおの本だけでなく関連グッズも集めている筋金入りのコレクターで、ほかにも貸本マンガや戦後の描き下ろし単行本などを蒐集(しゅうしゅう)していて、自宅はちょっとしたマンガ図書館状態。復刻版を手がける出版社がわざわざ連絡することもある。Aくんは貸本マンガの研究家で、その方面の文章も書いている。Nさんは三代続く本のコレクターで、おじいさんは空襲のさなか家族よりも稀覯(きかん)本を守った、という伝説がある。Nさん自身は戦後のマイナーな貸本マンガを探求している。Oさんは挿絵や絵物語の研究家で、あちこちに連載も持ち、その方面では名前が知られている。ほかに、60年代後半からの青年コミック誌のコレクター、少女マンガのコレクター、某ミュージアムのスタッフなどなど、今回も実に豪華な顔ぶれが揃った。

 お酒が入ると「ここに爆弾でも落とされたら、日本のマンガ研究は壊滅的になる」と豪語するのだが、まんざら大風呂敷を広げている、というわけではない。実際に、日本のマンガ史研究に欠かせない史料の蒐集は、この日集まったような個人の蒐集家に依るところが大きいのである。というより、現状では個人の蒐集家の蔵書抜きには考えられないのである。

 なにしろ、マンガに関する貴重な史料は、長年史料として顧(かえり)みられずに、ゴミとして捨てられていたのだ。昭和20年代の描き下ろし単行本のほとんどは、読者である子どもが大きくなると捨てられるか、学校図書館に寄付され、学校図書館はやがて本が傷んでしまうと廃棄した。デッドストックは焼却されたり、出版社や問屋の倉庫でネズミにかじられたり、カビだらけになったり、酷い場合は水につかったりした。

 そんなゴミ扱いのマンガをせっせと集めたのが個人の蒐集家たちだ。もしも本当に「マンガが文化」なのだとすれば、彼らは貴重な文化遺産を守ったのである。


 現在、京都には京都国際マンガミュージアムがあるが、ここにある歴史的な史料も大学や研究機関が集めたものは少なく、実は大半が個人コレクションの寄贈によってなりたっているのだ。明治から戦前の史料は、マンガ研究家で江戸時代の「漫画」や、明治・大正・昭和初期のマンガに関する数多くの著作がある清水勲さんのコレクションがベース。清水さんは、「赤本」と呼ばれる描き下ろし単行本も多く寄贈している。戦後から昭和30年代くらいまでは、個人でマンガ図書館「現代マンガ図書館」を運営する内記稔夫さんからの寄贈がベースになっている。

 まもなく、明治大学の関連施設として開館予定の「米沢義博記念図書館」は文字通り、マンガ評論家でコミックマーケットの代表だった故・米沢義博さんの膨大な蔵書の寄贈を受けたもの。

 「日本が世界に誇るマンガ」と声高らかに言う行政も大学も、マンガの史料蒐集にはまるで頓着してこず、個人の力に頼っているというのが、哀しいかな現状なのである。

 個人コレクションの最大の悩みは、蒐集家本人が経済的に行き詰まったり、病気になったり、亡くなったりした場合に散逸する危険性がきわめて高い、ということだ。

 コレクションをお金に換えるために古書店などに売られてしまうことが多いからだ。先日、神保町の古書店に、戦時中の講談社の絵本のそろいが出て、聞くと「まとめて買う人にしか金額も言えない」ということだったが、これなどは幸運な例だ。通常、古書店は売りやすくするために、この手のもののまとめ売りをしない。

 古書店に売られたものは、バラバラにはなっても、いずれ別の蒐集家のもとにたどり着くが、本人が死んだ後で遺族がコレクションの価値を理解しない場合には、廃棄されることもある。実際、おやじのばかげたコレクションに恨みを持つ遺族は多いのだ。

 もうひとつの問題は、個人コレクションはどうしても趣味のバイアスがかかってしまうことだ。好き嫌いという価値判断が、まんべんなく史料をそろえることを妨げる。個人の楽しみで集めているのだから、それはしょうがないが、史料性ということを考えると問題ではある。道楽だから許されるのだ。

 マンガが文化ならやはり、行政なり大学なりが、しっかりとした目でコレクションし、研究に役立てられるような体制が必要だ。できれば、デジタルアーカイブにして、非営利の研究目的に限った利用も検討してほしいと思う。そこに個人コレクションが役立てられるなら、それが望ましい形なのだと考える。


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