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まんがのしくみ

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プロフィール:中野晴行(なかの・はるゆき)
1954年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。 7年間の銀行員生活の後、大阪で個人事務所を設立、フリーの編集者・ライターとなる。 1997年より仕事場を東京に移す。
著書に『手塚治虫と路地裏のマンガたち』『球団消滅』『謎のマンガ家・酒井七馬伝』、編著に『ブラックジャック語録』など。『マンガ産業論』で日本出版学会賞奨励賞、日本児童文学学会奨励賞を、2008年には『謎のマンガ家・酒井七馬伝』で第37回日本漫画家協会賞特別賞を受賞。2009年、「まんがのしくみ」連載を電子書籍化した『まんが王国の興亡 ―なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか―』をリリースしたのちに、『マンガ進化論』と改題して書籍出版。

まんが王国の興亡

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コラム 2009/06/04
第37回 漫画業界は格差社会の縮図?
~正社員と非正規労働者の深い溝~


 若い編集者Mくんから久々に電話があった。「会社をクビになるので、どこか雇ってくれそうなところは知りませんか?」

 Mくんが働いているのは某大手出版社である。この不景気にクビというのはただ事ではない。何か不祥事でも起こしてたのか、あるいは、上司とケンカでもしたのか、と心配になって聞いてみると、Mくんは契約社員で、働いていた部署そのものが解散になり、契約が更新できなくなった、と言うのだ。
 
 「一応、3ヶ月の猶予期間があるので、メーカーの派遣切りよりはマシですけど……」とMくんは力なく笑った。
 
 これまで私は彼を正社員だとばかり思っていた。会社の名刺を持ち、編集部に訪ねていけば机もあり、IDカードも持っている。企画からアポ取り、我々への発注まで任されていて、どこからどう見ても正規の編集部員だ。だからこそ「実は契約社員」と聞いてびっくりした。

 世間では、派遣や契約といった非正規労働者の不安定な暮らしが問題になっているが、これをニュースにしている出版社にも派遣や契約で編集をする非正規労働者はたくさんいるのだ。われわれフリー編集者やフリーライターだって出版界の非正規労働者だ。その都度依頼を受けて取材や執筆をするわけで、いわば出版の請負労働者である。依頼はいつストップするかも知れず、業界ではもっとも弱い立場である。

 正社員の編集者の仕事と、契約社員や派遣社員の仕事に何か大きな差があるのかというと、「全く違いがない」のが実情だ。まんが雑誌でも編集プロダクションから派遣された編集者や契約社員の編集者は、連載の企画を出し、担当を持って即戦力として活躍している。中には正社員並み、いやそれ以上にヒットを飛ばしているやり手もいる。人気まんがにキャラとして登場しているあの人も実は正社員ではない。発行部数の少ない雑誌では、正社員は編集長だけというところさえある。それくらい、非正規社員の編集者のウエイトは大きい。

 しかし待遇にはかなり大きな差がある。大手出版社では30代で年収1千万円クラスもざらにいるそうだが、同じ大手でも契約社員の場合は2分の1から3分の1だと言われている。諸手当や福利厚生などを計算すると格差はさらに広がるようだ。フリーがどうなっているか、は武士の情けで聞かないでほしい。かろうじて生命線を死守している状態なのだから……。

 昔から出版社は労働組合の強いところが多く、社員には手厚い待遇を約束してきた。儲かっているときはいいが、人件費には簡単に手をつけられないから、儲けが減ってくれば大きな負担になる。大手出版社が大きな欠損を出している背景には、売り上げの減少下での人件費の高止まりがある、と指摘する声もあるほどだ。

 ふくれあがったまま硬直化した人件費の削減策として、注目されているのが非正規社員、というのは製造業の場合と同様。今後、出版不況が続けば非正規編集者の数はさらに増えるというのが大方の予測だ。

 しかし意外にも、この流れに対して働く側の意識も寛容だ。もともと出版界は他の産業と比較して人材面では流動的な産業だ。会社を移ることは珍しいことではなく、それによってステップアップしていく編集者もたくさんいる。こうした業界としての特性も、非正規編集者が増える背景になっている。一生を会社に捧げるのではなく、本作りに捧げるつもりなら、正規社員になる必要はない。

 そうは言っても、仕事は同じなのに待遇面では格差を抱えたままで、この先も大丈夫なのだろうか。今は良いのかも知れない。大好きなまんがの編集ができる、ということが、非正規編集者たちのモチベーションを維持している限りは……。

 しかし、Mくんのように部署の閉鎖で放り出された者はどうなる? 若いうちはいい。40歳を過ぎれば、編集長クラスは別として次の職場はどんどん見つけにくくなる。現にそういう立場に追い込まれた非正規の編集者を何人か知っている。それでも、好きなまんがの仕事だから、と言っていられるものかどうか。派遣や契約の編集者に本音を聞けば、多くは「できるなら正社員になりたい」と語っている。年齢を重ねれば重ねるほどその割合は大きくなる。

 最近になって、出版社に対するまんが家の反乱が目立つようになってきた。これも、編集者に比べてまんが家の待遇が低くなってしまったことが原因の一つではないか、と言われている。次は、非正規編集者の反乱が出るのではないか。

 そして、まんが家と非正規編集者が手を組んだとき、まんがは大きな変化の時代に突入するのではないか? そんな気がしてならない今日この頃なのである。


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