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まんがのしくみ

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プロフィール:中野晴行(なかの・はるゆき)
1954年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。 7年間の銀行員生活の後、大阪で個人事務所を設立、フリーの編集者・ライターとなる。 1997年より仕事場を東京に移す。
著書に『手塚治虫と路地裏のマンガたち』『球団消滅』『謎のマンガ家・酒井七馬伝』、編著に『ブラックジャック語録』など。『マンガ産業論』で日本出版学会賞奨励賞、日本児童文学学会奨励賞を、2008年には『謎のマンガ家・酒井七馬伝』で第37回日本漫画家協会賞特別賞を受賞。2009年、「まんがのしくみ」連載を電子書籍化した『まんが王国の興亡 ―なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか―』をリリースしたのちに、『マンガ進化論』と改題して書籍出版。

まんが王国の興亡

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コラム 2009/05/06
第35回 コンテンツに大きな変化の波がやってきている
WEB連載とグーグル裁判


 人気まんが家の佐藤秀峰が「脱雑誌宣言」を出した。「ビッグコミックスピリッツ」に連載中の『新ブラックジャックによろしく』などを今後、雑誌掲載1ヶ月後に自分自身のWEBサイトでも連載。雑誌の締め切りに管理されなくても、コンスタントに描き続ける自信ができれば、今後はWEB連載主体に移行していく、というものだ。この原稿を書いている時点では課金の方法など、どのようなビジネスモデルを想定しているのかよくわからないが、佐藤のこの試みがうまくいくようなら、同じように「脱雑誌宣言」をするまんが家は増えるのではないか。

 担当編集者は了承済みである、というのだが、まんが雑誌衰退にいっそうの拍車がかかる可能性は高い。

 私は、読み捨てを前提とした今の雑誌は、WEB連載に取って代わられるのではないか、と従来から主張してきた。読み終わったら、ゴミとして捨てられてしまう雑誌は、まんがというコンテンツを運ぶためのパッケージに過ぎないのだ。コンテンツを賞味した後は、みかんの皮のように捨てられる。

 もし、パッケージなしにコンテンツそのものが読者に届けられるなら、読者にとっても環境にとっても良いことだ。WEB連載はそれを実現するのだ。ケータイまんがから単行本化される事例は増えており、今後の動きを見守っていきたいと思う。


 もうひとつ、WEBでは大きな問題が起きている。WEB上の検索サービスでは世界最大手のグーグルが、欧米の主要大学図書館と連携して蔵書のデジタル化を進め、ブック検索サービスをはじめている問題である。そこには膨大な量の和書も含まれている。

 アメリカでは一定の条件のもとに誰もが自由に著作物を利用できる「フェアユース(公正使用)」が認められており、グーグル側は、デジタル化は「フェアユース」の範囲として、著者や著作権者に許諾を得ないまま作業を進めてきた。これに対してアメリカの作家組合と出版社協会が、グーグルがブック検索で広告収入を得ていることや、デジタル化した書籍をWEBで販売しようとしていることから、ビジネス目的のデジタル化は「フェアユース」ではなく著作権侵害、とする集団訴訟を起こし、2008年10月両者の和解が成立したのだ。

 和解案によれば、グーグルは今後も書籍のデジタル化を続け、今年5月5日までにデジタル化した書籍に対しては主要作品で60ドルなどの対価を、そしてグーグルが書籍データ・サービスで得た収益の60%を権利者に払う。また、権利者はデジタル化の差し止めやデータベースからの削除を求めることができる、とある。

 今のところ、ブック検索はアメリカ国内だけのサービスであり、ここまでなら、アメリカ国内の問題で済まされたのかも知れない。しかし、アメリカの集団訴訟では、訴訟を起こした集団と利害の共通する関係者は訴訟に直接関わらなくても、同等の効果が自動的に及ぶことになっている。

 現在、アメリカや日本など国際的な著作権ルールであるベルヌ法を批准している国では、著作権者は全てアメリカの集団訴訟と「権利の共通する関係者」と見なされてしまうのだ。

 結果として、アメリカの作家組合、出版社協会とグーグルの和解は、ベルヌ法を批准している国のすべての著作権者に対して効力を及ぼしてしまうのだ。

 5月5日までに、世界中の著作権者は、和解に応じるか、拒否するかの態度を表明しなくてはならない。表明しない場合は自動的に和解に応じたことになる。

 今のところ日本の主な出版社は特にアクションは起こさず、自動的に和解に応じる態度のようだ。また日本のまんがに関しては、グーグルは和解の範疇外というスタンスらしい。

 ブック検索サービスで間接的にせよ収益を上げているグーグルが「フェアユース」を主張するのも奇妙な話だし、アメリカで決まったことがそのまま世界のルールになってしまうことも腑に落ちないが、一番気になるのは今後、グーグルのようにコンテンツを勝手にデジタル化して、それをビジネスに結びつけようとする会社が出てこないのか、という点だ。

 和解によりお墨付きができれば、大手を振ってデジタル化ができ、コンテンツの囲い込みも可能になる。私はデジタルアーカイブ化に大賛成の立場だが、「フェアユース」の名の下に、企業がコンテンツを私物化し、そこから膨大な収益を上げている状態が、健全なデジタルアーカイブの姿だとは考えられないのである。


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