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イズミ少年の漫画日記

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第25回 2009/10/27
ムラマサと70年代風俗
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プロフィール:泉麻人
1956年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、週刊TVガイド編集部勤務を経て、フリーのコラムニストに。東京をテーマにした著書が多い。漫画関係の著書では赤塚不二夫作品の魅力にふれた『シェーの時代―「おそ松くん」と昭和こども社会』(文春新書)がある。2005年、気象予報士の資格を取得。

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2010/05/03
第30回 『若者たち』 60年代末の阿佐ヶ谷風景


若者たち
©永島慎二

 90年代の初めから杉並の浜田山に住んでいる。浜田山といっても、かなり北方の場所だから、高円寺や阿佐ヶ谷といった中央線沿線の街に出るのも近い。

 このあたりは、僕が中高生だった70年代前半、フォーク系のミュージシャンが暮らす街として知られた。68年、高円寺に開店した「ムービン」というロック喫茶を根城に、クチコミでミュージシャンが集まってきた……という。話を聞いたが、戦前から井伏鱒二ら作家連中が集う文化的な土壌が根付いていたともいえる。数年前、杉並の郷土博物館で催された「高円寺フォーク伝説」というユニークなイベントのパンフレットに、こんな興味深い一文が記述されている。

 「高円寺という町は一九七〇年頃でも、下町色の強い人情味あふれる街でありながら、あまり他人のみなりや生活に干渉しない街であり、しかも中央線に乗ればすぐに都心に出られるという交通の便の良さがあり、その上物価やアパートなどの家賃が安いという、音楽を志して地方から上京してきた貧しい若者たちにとっては実に生活しやすい街だったのである。そうした意味では音楽は志す若者も多く、また地方からでてきた大学生にとっても住みやすい街であり、この当時から学生の多い街だったという」

 ちょっと前置きが長くなったけれど、漫画家の永島慎二がお隣の阿佐ヶ谷に暮らしていたのも、まさにこの時代である。先日、古書市で入手した『若者たち』(双葉社・73年刊)には、阿佐ヶ谷の安アパートに雑居して、詩人や画家を志す若者たちの日常がリアルに描かれている。


いつもしみったれた話題ばかりの5人
(『若者たち』より)©永島慎二

 昭和43年10月、青年漫画家・村岡栄(22歳)はその日ふたりのわかものをひろった――というト書きで始まるこの作品、主人公の村岡はほぼ作者の投影……とみていいだろう。 昭和43年(68年)は先のムーピンが開店した年でもあるが、僕は当時小学6年生だったから、青年向けの「漫画アクション」に連載されていたこの作品は知らなかった。
 コミックスに収録された11篇の話が、抜粋なのか、全篇なのか……定かではないけれど、70年代を迎える頃の話で完結している。

 主人公の村岡の部屋は、外階段の上がっていく、いかにもあの辺の安アパートといった雰囲気で、総勢5人の男が3畳間に同居している。ま、3畳間に5人ってのは、さすがに漫画的なデフォルメかもしれないが、薄汚い野郎どもが狭苦しい部屋で、あーだこーだやりとりしている様は、後年の山上たつひこの『喜劇新思想大系』の環境にも似ている。

 誰かが恋の悩みを打ち明ける話があったり、仕事の迷いが語られることがあったり、そこにまた奇妙な男が紛れこんできたり、とはいえ、生死に関わるような大事件が勃発することもなく、なんとなくだらだらと時は過ぎてゆく。心象風景の場面で終わる話が多い。そういったストーリー構成は、60年代末ちすてが斬新といえるだろう。同題の「若者たち」というTVドラマが60年代中頃に評判を呼んだが、そういう旧時代の青春ドラマに対するパロディーの意図も含まれていたのかもしれない。

 ところで、彼らの溜り場としてしばしば登場する「ぽえむ」という喫茶店は、当時永島が贔屓にしていた実在の店という。ちょうど手元に73年の住宅地図があるので、探してみた。作中に「ガードの前」というセリフがあるので、それをたよりに中央線の端をルーペでチェックしていくと、あった! 駅北口をちょっと荻窪方向へいった「ダイヤ街」(高架下商店街)西端の真ん前。ちなみにこのダイヤ街も、彼らが夏場に冷房で涼む場所、として語られている。


喫茶ぽえむには、夢を追う様々な若者が集う
(『若者たち』より)©永島慎二

 こうやって地図を眺めると、確かに周辺には村岡たちが暮らしているような、小さなアパートがぽつぽつと点在している。


若者たち
『若者たち』
永島慎二 315円(税込)

青年漫画家、村岡栄のアパートでの5人の若者たちの奇妙な同居生活をペーソスたっぷりで描く。文学、絵画、音楽、それぞれの芸術を追い求めながら現実の厳しさに立ち向かう。70年代の青春群像を瑞々しく描いた傑作青春漫画。
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