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イズミ少年の漫画日記

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ムラマサと70年代風俗
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プロフィール:泉麻人
1956年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、週刊TVガイド編集部勤務を経て、フリーのコラムニストに。東京をテーマにした著書が多い。漫画関係の著書では赤塚不二夫作品の魅力にふれた『シェーの時代―「おそ松くん」と昭和こども社会』(文春新書)がある。2005年、気象予報士の資格を取得。

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2010/04/17
第29回 『紫電改のタカ』(その2) 戦記漫画における「魔球」


紫電改のタカ
©Tetsuya Chiba

 太平洋戦争の終盤を舞台にした『紫電改のタカ』には、源田実、坂井三郎といった当時の実在した有名軍人が登場する。とはいえ、週刊ペースの少年漫画ゆえ、連載時(63~65年)の流行語の類も時折入れこまれているのが面白い。何かの動作をブームだった忍者にたとえるセリフが出てきたり、「戦記まんがの読みすぎだよ」なんていう楽屋オチめいた表現がでてきたり、たとえばコミックス(講談社漫画文庫)の1巻、空戦中に消息を絶った滝城太郎が仲間たちの前に還ってきた場面で、開口一番「滝だぁ」といっている。

 滝だぁ――若い読者にはどうってことないフレーズに思えるだろうが、これは当時、谷啓や青島幸男が多発していた「谷だぁ」「青島だぁ」といったギャグフレーズにあやかったものに違いない。バラエティー番組の「シャボン玉ホリデー」でブレイクした流行語だった。

 そんな主人公の滝の前には、次々とライバルが現れる。まず初期の頃に登場するのが、“ブラックホーク”と呼ばれる黒いグラマンに乗るアメリカ軍のジョージだ。滝が編み出した必殺戦法「逆タカ落とし」(上昇したと見せかけておいて、敵機下に潜り込んで攻撃する)に挑むべく一騎打ちするシーンは、さながら当時の野球漫画を彷彿とさせる。野球漫画における魔球が、こういう飛行戦術に応用されていたのだ。やがて二人の間には敵味方を越えた友情が芽生え、ジョージは敢えなく戦死してしまう。そして、また新たな強敵キャラが繰り出されてくるあたりの展開は、スポーツ漫画と同じ構成といえるだろう。


滝と死闘を演じた“ブラックホーク”のジョージ
(『紫電改のタカ』より)©Tetsuya Chiba

 中期には「七人のさむらい」とあだ名される百戦錬磨の荒くれ飛行隊が登場、ボス格の花田というヒールな男がしばらく滝のライバル役を演じる。額や頬に深い傷跡を見せた能面のような顔だちは、ちば漫画おなじみの悪役面である。七人のさむらい隊と滝の一派を仕切る、宇津井という白髪白ヒゲの老軍曹もインパクト満点だ。


滝城太郎と対立する、七人のさむらいのボス・花田
(『紫電改のタカ』より)©Tetsuya Chiba

 滝と花田の対決にオーバーラップするように、タイガー・モスキトンという謎の撃墜王が操るシマ柄のP51ムスタングが現れ、これが終盤の戦闘シーンの目玉となる。滝は、岩山に手ずからこさえた突飛なジェットコースター装置による特訓を経て、「新戦法」を編み出し、モスキトン機との対決に挑む。

 太陽に向かって急上昇して姿をくらまし、あっという間に相手に張りつくように接近している……いわば「消える魔球」的な新戦法、そのうち「逆タカ落とし」的なネーミングが成されるのだろう、と思いつつ読んでいたら、最後まで「新戦法」のままだったのが、ちょっと腑に落ちなかった。うーん、この辺は戦争テーマの作品に野球漫画の魔球調のネームを付けるのは不謹慎……というような、作者の迷いが生じていたのかもしれない。

 そして、このモスキトンの正体は、悲惨な過去をもつ米軍パイロットの兄弟と判明する。金髪の容貌はジョージにも似ているから、ジョージの生き返り、あるいは彼の血縁……みたいなシナリオも当初はプランされていたのかもしれない。

 野球漫画的な対決やアクション映画めいた脱走シーン……などで少年読者を引きつけながらも、戦場に子を送り出した家族の心境、仲間を失った兵士の悲しみ……戦争の惨ましさ、反戦平和を願う作者の意図がきっちりと描かれている。

 「新戦法」の件でもふれたが、とくに終盤は娯楽色を排除したいという意志が昂まったのか、少年漫画にしては哀しいエンディングを迎える。将来の夢(教師になる)を語った後、結局、滝は覚悟を決めて特攻隊員として大空に飛び去るシーンで漫画は終わる。

 戦後、教師として活躍するエピローグでまとめる選択肢もあったのだろうが、ちばてつやは反戦(戦争悪)のメッセージをより強く少年読者に伝えたかったのだろう。





紫電改のタカ
『紫電改のタカ』
ちばてつや 各315円(税込)

第二次大戦末期の昭和19年夏、台湾南部にある高雄基地、名機「紫電」で編成された七〇一飛行隊に、少年飛行兵・滝城太郎がやってきた。訓練ばかりが続いていた七〇一飛行隊だったが、滝が入って早々実戦の機会が訪れる。勝手に編隊を離れ、単独行動をとった滝は大目玉をくらうが、仲間達には受け入れられる。ある時、フィリピンのマルコット米軍基地を七〇一飛行隊だけで襲撃せよという緊急指令が入って… 戦争とは何か? 何のために戦うのか? 生と死の狭間で苦悩する少年飛行兵の青春!!
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