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イズミ少年の漫画日記

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プロフィール:泉麻人
1956年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、週刊TVガイド編集部勤務を経て、フリーのコラムニストに。東京をテーマにした著書が多い。漫画関係の著書では赤塚不二夫作品の魅力にふれた『シェーの時代―「おそ松くん」と昭和こども社会』(文春新書)がある。2005年、気象予報士の資格を取得。

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2010/02/02
第28回 『紫電改のタカ』(その1) 60年代初期の戦記ブーム


紫電改のタカ
歴戦をくぐりぬけるなかで、滝は一飛曹に昇進する
(『紫電改のタカ』より)©Tetsuya Chiba

「まんだらけ」などのマンガ系古書店の棚で60年代当時の少年漫画誌を物色すると、ゼロ戦やグラマン、戦艦大和…といった軍機の表紙が目につくことに気づくだろう。60年代の初頭、とくに62年頃から太平洋戦争を扱った“戦記物”の読物やマンガがちょっとしたブームになった。

 この年の11月にスタートしたアメリカの戦争ドラマ「コンバット」の人気もブームの発火点の一つとはいえるだろうが、それ以上に“時代の経過”が関係しているように思われる。終戦から15年余りが経って、そろそろ1種のノスタルジーとして戦争を語れる時期に入った、ということだろう。漫画誌の作り手側にそういった回想の気運が昂っていたのではないか……と僕は思う。戦争体験をした世代が、ちょうど編集の実権を握る頃でもあった。当時の誌面を眺めると、小松崎茂らが描く戦闘機や軍艦の図解に始まって、少年誌ゆえ軍機のプラモデルを並べた懸賞ページなどが目につくものの、真摯なスタンスで戦史をつづった読物も見受けられる。そう、この時期から少年たちの遊び道具の主役に躍り出たプラモデルも、怪獣やサンダーバードなどの宇宙物が人気を呼ぶ66年頃までは、ゼロ戦や大和、パットン戦車……といった軍機が看板商品だった。

 戦記物の漫画は61年に始まった『ゼロ戦レッド』(貝塚ひろし)、そして63年の『0戦はやと』(辻なおき)と『紫電改のタカ』(ちばてつや)が主なところだったが、63年に小学校に上がった年少の僕がとりわけ親しんだのは、『0戦はやと』のTVアニメ版だった。

 ♪見よあの空に~という主題歌(作詞はシナリオを担当していた倉本聡)と、♪オレたちゃ天下の爆風隊~っていう挿入歌があって、明治キンケイカレーの提供だった。

 ♪明治キンケイ 明治キンケイ インドカレー~なんていう、アラビア調のCMソングも思い浮かんでくる。ま、TVアニメということもあって、内容は子供向けのわかりやすいものだったが、これによって大将、中将、少将、大佐、伍長、上飛曹……といった軍人の位を学習した。そういえば当時、確か古谷製菓だかのキャラメルのオマケにそういう軍人の肩章を象ったワッペンがあって、これを熱心に集めたことも思い出す。

 さて、『紫電改のタカ』は63年7月から65年1月にかけて、「少年マガジン」に連載された。僕が小学1.2年生の時期で、当時「少年マガジン」は常読していなかったから、この作品はほとんど馴染みがない。とはいえ、「少年マガジン」を読んでいるクラスメートを通じて「紫電改のタカ」のタイトルはよく耳にしていた。そして、おそらくこの漫画を発端に紫電改という戦闘機は人気を呼んでいた。


滝城太郎と同年代の仲間たち(『紫電改のタカ』より)©Tetsuya Chiba

 愛読していた『おそ松くん』の63年末頃の作品にも、こんな場面がある。忠臣蔵をネタにした回なのだが、ドタバタの格闘シーンのなかで下っ端の武士がふざけたやりとりをしている。プラモを見つけた武士Aが「あ! このはねは紫電改のはねだ!」といい、「しっかりしでんかい!」と武士Bがボケる。

 紫電改=シデンカイの語感は印象的であり、またゼロ戦の陰に隠れた2番手的な位置が魅力的であった。巨人軍の選手名を語るとき、王や長嶋ではなく、船田や坂崎の名を挙げるような、少年のマニア心を刺激するものがあった。

 そんな『紫電改のタカ』を講談社漫画文庫でじっくりと読んでみると、これが実に面白い。主人公の滝一飛曹(後に兵曹長)、年齢は特定されていないが、中学生くらいの設定と思われる。彼がちょっと上の紺野、久保、米田といった少年飛行士たちとともに活躍する物語だ。話は敗色が濃くなった昭和19年(1944年)夏の台湾、高雄基地を舞台にスタートする。

 読んでいくと、ちば漫画らしい特徴が次々と現れるが、その辺についての言及は次回に回すことにしよう。





紫電改のタカ
『紫電改のタカ』
ちばてつや 各315円(税込)

第二次大戦末期の昭和19年夏、台湾南部にある高雄基地、名機「紫電」で編成された七〇一飛行隊に、少年飛行兵・滝城太郎がやってきた。訓練ばかりが続いていた七〇一飛行隊だったが、滝が入って早々実戦の機会が訪れる。勝手に編隊を離れ、単独行動をとった滝は大目玉をくらうが、仲間達には受け入れられる。ある時、フィリピンのマルコット米軍基地を七〇一飛行隊だけで襲撃せよという緊急指令が入って… 戦争とは何か? 何のために戦うのか? 生と死の狭間で苦悩する少年飛行兵の青春!!
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