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イズミ少年の漫画日記

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第25回 2009/10/27
ムラマサと70年代風俗
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プロフィール:泉麻人
1956年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、週刊TVガイド編集部勤務を経て、フリーのコラムニストに。東京をテーマにした著書が多い。漫画関係の著書では赤塚不二夫作品の魅力にふれた『シェーの時代―「おそ松くん」と昭和こども社会』(文春新書)がある。2005年、気象予報士の資格を取得。

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2009/06/30
第16回 ツチノコブームの立役者は釣りキチ三平の作者だった!
~石油ショックとディスカバー・ジャパンの時代~


釣りキチ三平
矢口高雄「ふるさと」に登場するバチヘビ
(『ふるさと』より)©矢口高雄

 コミックスの14巻(講談社文庫版)には、<怪魚釣り編>と題して、黄金色のイワナ、双頭のイワナ、沢坊主とあだ名されるオオサンショウウオ…の話などが収められている。怪魚とはいえ、根拠のないファンタジーじみた内容ではなく、生物学的な解説が成されているあたりが、矢口漫画の素晴らしいところだ。

 怪魚ではないけれど、あの怪蛇ツチノコ(バチヘビ)も、矢口漫画を発火点に、73年、大きなブームを巻き起こした。実は「バチヘビ」も、この、「釣りキチ三平」のなかで紹介された話、と思いこんでいたのだが、これは「幻の怪蛇バチヘビ」として発表された別作で、当イーブックのプログラムには含まれていないらしい。「釣りキチ三平」の第一話(水のプリンセスの巻)に、「矢口高雄のバチヘビはケッサクだあ」と、酒に酔った三平が語っているシーンがあるけれど、残念ながらバチヘビの姿は描かれていない。「怪蛇バチヘビ」を再読してみたいところだったが、入手することはできなかった。今回は記憶を拠り所に、ツチノコブームの頃を振り返ってみよう。(eBookJapanで販売中の「ふるさと」のなかにちょろっと登場するようだ)

 矢口漫画の細かいストーリーは憶えていないけれど、野良道を往く三平少年に似た主人公(同一キャラクターだったかもしれない)の頭上を、丸太のようにふくらんだ蛇がジジーっみたいな奇声を発して飛び越えてゆくカット――が印象に残っている。ネズミや子ダヌキを丸ごと飲みこんでいるような場面もあったはずだ。

 連載誌の少年マガジンは、特集ページでもツチノコ・キャンペーンに力を入れていて、歴代の怪生物(雪男やネッシー)を含めた紹介記事が、2色刷りのページでよく展開されていた。やがてヒバゴンなどの新種(民話としてはもっと古いのだろうが)も加わって、翌74年のスプーン曲げ、エクソシスト、コックリさん…といったオカルト現象を取りこんで、ブームは大きくふくらんでいく。そう、73年は「日本沈没」や「ノストラダムスの大予言」といった書籍がベストセラーになった年でもあった。73年秋の石油ショックを火種にした社会的な終末感が、一連の不可思議物のブームに大きく関与していた、ともいえるだろう。また、ツチノコやヒバゴンなどの奥山の怪生物…についていえば、<ディスカバー・ジャパン>の時代の空気とも一致する。高度成長期がひとまずピークに達して、のどかな地方の風土に目を向けよう、という気連が芽生えていた。SLに乗って、萩や津和野を旅する、当時のアンノン旅と似たフォークロアな意識が、ツチノコ人気の背景にも存在していたのだろう。

 73、74年のブームが去った後も、ツチノコには根強いファンがついていた。昭和の時代が終わった平成元年(89年)の5月、僕は岐阜の東白川村で催された「ツチノコ捕獲大作戦」なるイベントに参加した。

 これは、新聞の小さな告知記事で知ったのが発端だったが、東白川村の開村百周年を祝した、当時ハヤリの“村おこし”キャンペーンであった。生け捕り=百万円、死体=五十万円、写真=二十万円、皮=二万円――と、懸賞の諸々がもっともらしく掲げられ、一泊二日の旅程で村へ入ると、捕獲会の前夜に、全国から集まった愛好家による「ツチノコサミット」なる発表研究会が催された。目撃した農民が、絵や模型を使って出現時の様子を説明し、雑誌「ムー」などに寄稿する研究家が真撃な解説をつける。

 結局、翌日の捕獲会では、ヤマカガシを捕まえた人がいたくらいで、これといった成果は得られなかったが、マニアとも交流ができて、実に愉しいイベントであった。三平がそのままオトナになったような自然派オヤジが何人もいた。そのとき、ミヤゲ物屋で買ったツチノコの陶器がいまもリビングの飾り棚に置かれている。5月連休の催しだったから、あれからちょうど20年になるのだ…。


釣りキチ三平
『釣りキチ三平』
矢口高雄 各420円(税込)

天才釣りキチ少年、三平三平(みひらさんぺい)登場! 世代を超えて釣ろう、でっかい夢を!! 同じく釣りキチのじいちゃん・一平(いっぺい)譲りの才能で、参加した鮎釣り大会に初出場で見事優勝する。しかし、その優勝をねたむやからに難癖をつけられ、鮎釣り対決をすることに。三平がとった策は「水あびと昼寝作戦」!! 水のプリンセス“鮎”の魅力を堪能できる第1巻。 (※収録されている技術や環境に関しての表記は、作品発表当時のものをそのまま掲載しております。)
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