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イズミ少年の漫画日記

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第25回 2009/10/27
ムラマサと70年代風俗
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プロフィール:泉麻人
1956年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、週刊TVガイド編集部勤務を経て、フリーのコラムニストに。東京をテーマにした著書が多い。漫画関係の著書では赤塚不二夫作品の魅力にふれた『シェーの時代―「おそ松くん」と昭和こども社会』(文春新書)がある。2005年、気象予報士の資格を取得。

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2009/05/12
第12回 「風太郎と三島由紀夫の自決」
銭ゲバ(ジョージ秋山) その2


銭ゲバ
意外な風太郎の最後
(『銭ゲバ』より) ©2005 George Akiyama


 銭ゲバ=蒲郡風太郎は、いわゆる“当たり屋”(作為的に車にハネられる)をきっかけに知り合った会社社長のもとに潜りこむことから、成り上がり人生を歩んでいく。この会社は「大昭物屋」という、総合商社風の名称にはなっているけれど、足利あたりに工場をもつを化学系のメーカーのようで、風太郎が社長の次女を嫁取って社長の座につく頃からは、工場が排出する有機水銀に因る公害病の問題がストーリーの重要なテーマに据えられる。当時(70年)は熊本のチッソ社をめぐる水俣病訴訟のニュースがマスコミをにぎわせている時期であった。ちなみにこの年は、薬害のスモン病、牛込柳町の排気ガス汚染、光化学スモッグの発生…と様々な公害がクローズアップされていた。

 そして、ここで風太郎の宿敵として、秋遊之助という青年作家が登場する。“社会派”を自称する彼は公害を題材にした作品に取り組み、長髪にサングラスを掛けたその風体は若い頃(当時)のジョージ秋山氏を思わせるところもある。小難しいことも語っているけれど、風太郎に向かって「あんたは独特のフィーリングをもっている…地獄のフィーリングってのかな。」なんてフレーズを吐くあたりは、いかにも時代を感じさせる。

 社長の座についた風太郎は目ざわりな者を次々と処分(殺し)し、公害問題には耳も貸さず、悪いイメージを払拭すべく、偽善的な慈善活動をして、のうのうと金満生活を送っている。豪邸でくつろぐシーンでは、ブランデーグラスを手にガウンを着ているが、この風太郎のガウン姿は強く印象に残っている。そして、侍らせた女性の扱いは実に粗っぽい。濃密な性描写こそ描かれてはいないが、女性の衣服を乱暴に剥き取るようなカットがしばしば見受けられる。そんなカットに<ズババーン!>なんて凝音調の吹き出しが付いているのは、あの時代の劇画的表現といえるだろう。所々に筋から飛躍した、シュールなイメージカットなども織りこまれている。また、各章に付けられた「危険な斜面」「犯罪乱流」といったタイトルには、松本清張作品の影響も見てとれる。

 71年初頭まで続く「銭ゲバ」の後半は、企業家から政治家へと転進するパートとなる。県知事選に打って出る風太郎の背後の黒幕として、神清行なる有力代議士が現われ、一方ライバル候補の参謀として、大学伸一郎という妖怪じみた悪徳事業家が登場、ストーリーはいよいよ清張の「わるいやつら」ばりの生臭い展開をみせる。数ページ置きに血しぶきと札束が飛び交う、相変わらずのドロドロ劇を繰り広げながら、晴れて選挙に勝利した風太郎は最終的に過去を回想しつつピストル自殺を遂げて幕、となる。

 「てめえたちゃ みんな銭ゲバと同じだ もっとくさってるかもしれねえな それを証拠にゃ いけしゃあしゃあと生きてられるじゃねえか」

 と、ラストカットには、風太郎とも秋遊之助ともとれる遺書の一文が掲げられている。ここには漫画家として成功を収めた作者自身のある種のジレンマが、表現されているように思われる。漫画のスタートが先とはいえ、この自死のフィナーレは、70年11月の三島由紀夫の自決も何らかの影響を及ぼしたのではないだろうか。

 ところで「銭ゲバ」の連載時、僕が一番贔屓にしていた漫画は少年マガジンの「ヤスジのメッタメタガキ道講座」であった。谷岡ヤスジ描く、風見鶏キャラクターのこの作品はナンセンスなギャグ漫画とはいえ、やたらと刃物が使われ、流血シーンの目白押しだった。「鼻血ブー」「血い見るどー」などのフレーズもハヤった。

 「銭ゲバ」とは対照的な作風とはいえ、いずれも“時代の変わり目の破壊性”が表現された作品といえるだろう。


銭ゲバ
『銭ゲバ』
ジョージ秋山 各420円(税込)

政治の世界をも牛耳ろうと目論む風太郎は、大物政治家である神の娘さおりに接近するが……!?  自らを「銭ゲバ」と呼び、金のためには人を殺めることさえもいとわない男、蒲郡風太郎。彼の人の世に生きる苦しみと、真実の愛への渇望を力強く描いたジョージ秋山渾身の力作、ついに完結!!
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