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イズミ少年の漫画日記

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第25回 2009/10/27
ムラマサと70年代風俗
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プロフィール:泉麻人
1956年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、週刊TVガイド編集部勤務を経て、フリーのコラムニストに。東京をテーマにした著書が多い。漫画関係の著書では赤塚不二夫作品の魅力にふれた『シェーの時代―「おそ松くん」と昭和こども社会』(文春新書)がある。2005年、気象予報士の資格を取得。

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2009/03/10
第7回 初めは「九番打者」だった
ミラクルA(貝塚ひろし)(その1)


ミラクルA最初の“秘球”ジェット快球
最初の“秘球”ジェット快球
(『ミラクルA』より) ©Hiroshi Kaizuka


 手元に少年サンデーの1964年11月8日号(46号)がある。表紙を飾るのは「ミラクルA(エース)」の郷姿郎、いやもとい「九番打者」時代の郷姿郎である。現在、作品名義が「ミラクルA」になっている貝塚ひろしのそれは、当初「九番打者」の題名だったのだ。この年の6月から始まった漫画は、まもなくサンデーの野球モノの看板となり、目次の順位も「伊賀の影丸」「おそ松くん」の次に位置づけられている。この号は、郷が編み出した最初の“秘球”ジェット快球が、宿敵・谷のぬきうち打法によって、ファールチップながら打たれる話である。内容からちょっと外れるけれど、この当時の少年漫画は、コマの隅に一口コラムなんかが入っているのがおもしろい。たとえばこの回では東映フライヤーズの尾崎投手がこんな応援コメントを寄せている。

 「郷君のように、ぜったいうたれない、大秘球がなげられたら、すてきだ。『九番打者』を、みていると、ファイトがわく。」

 まぁ、どこまで信憑性のあるものなのか…はともかく、尾崎投手も語っているとおり、主人公の郷が編み出す新しいタマは魔球ではなく、秘球と呼ばれていた。ライバル投手の天海のヒュルルルとヘビのような流れを描くスリーXなるタマは“魔球”と表現されていたから、秘球の方が格上という意図があったのだろう。

 サンデーとコミックス(秋田書店版)とをてらし合わせてみると、コミックス版では多少割愛された場面もあるようだが、後者の初回は巨人・広島戦のシーンから始まる。バックスクリーンに表示された両軍のラインナップは以下のとおり。

<巨人>柴田・広岡・王・長嶋・森・国松・船田・柳田・藤田
<広島>大和田・古葉・森永・興津・藤井・山本・小坂・田中・大羽

 当時の「ファン手帳」(12球団の選手名鑑・¥20)を持っているけれど、実際のペナントレースに準じたメンバー、といっていいだろう。僕がプロ野球に熱中しはじめた頃なので思い出深い。この年(64年)のセリーグは、阪神と大洋が1、2位を争った年だが、漫画でもその状況が忠実に再現され、郷のライバルも谷=阪神、天海とジョン・ウェイン=大洋、といった具合に割り振られている。

 さて、まだ今回は「九番打者」と題して書いていこう。主人公の郷は北海道出身の三人兄弟の末っ子で、長兄は一郎、次兄は次郎という。当時から、三男でシロー(姿郎)ってのはヘンだと思っていたが、その辺は欠番の背番号4を当てがわれるのに絡めたのかもしれない。(あるいは構想時は4人兄弟の設定だったのか?)

 長兄の一郎は当初、ナゾの男・黒井として現われ、伊賀山中で“虎の穴”的な選手養成所(谷や天海もここの出身)を主催する一面などが明るみになっていく。伊賀山中での忍法めいた特訓は、いかにも忍者ブームの時代を反映している。一方、次郎は古里の北海道でのんびりと馬なんかに乗っている男だが、秘球一号のジェット快球は、次郎の牧場の窓ガラスが低空飛行の自衛隊機の爆音で割れた…のがヒントになって開発されるのだ。

 豪速球の爆音によって土埃があがりタマが消える、という理不尽な理屈とはいえ、これは後年の星飛雄馬の大リーグボール1号にも似た“原点”ともいえるのだろう。

 郷のパートナー、捕手の大山大造は漫画のなかで重要な役割を果たした。小山小造ともあだ名される彼はコミカルなチビキャラで、当時の僕の家からも近い目白の豪邸に住んでいる。父親が大山製薬の社長ゆえ、自社製品のCM「ハリキンビン飲んでいこうか~」ユッサユッサと身体を振るわせるアクションが、彼の持ちネタになっている。リポビタンDを王が、ビオタミンを長嶋が、人気選手が製薬会社の広告塔になっていた時代、貝塚ひろしの時事感覚の敏感さが窺える。そして、川上監督をはじめ、実在の選手たちが奔放にギャグに絡むのも、この漫画の魅力だった。


ミラクルA
『ミラクルA』
貝塚 ひろし 各315円(税込)

拾呂久番太の正体は、やはり巨人軍のミラクルA(エース)郷姿郎だった。郷は新しく生み出した左右スイッチ投法により日本シリーズで大活躍をみせる。だが、Jと名乗る外国人が現れ、あの手この手で郷を大リーグにスカウトしようとする。果たして郷はアメリカへ行ってしまうのか!?
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