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イズミ少年の漫画日記

イズミ少年の漫画日記
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第25回 2009/10/27
ムラマサと70年代風俗
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プロフィール:泉麻人
1956年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、週刊TVガイド編集部勤務を経て、フリーのコラムニストに。東京をテーマにした著書が多い。漫画関係の著書では赤塚不二夫作品の魅力にふれた『シェーの時代―「おそ松くん」と昭和こども社会』(文春新書)がある。2005年、気象予報士の資格を取得。

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2009/02/10
第3回 オトナびた少年忍者
「伊賀の影丸」(横山光輝)(その2)


伊賀の影丸オトナびた少年忍者
相棒に冷めたセリフを返す影丸
(『伊賀の影丸』より) ©光プロダクション

 僕が少年サンデーを読みはじめた頃(64年後半)、「伊賀の影丸」は看板作品の地位にあった。当時の目次も、右から「伊賀の影丸」「おそ松くん」「九番打者」…といった順位で記されていた。その時期からサンデーは、人気漫画の別冊を出すようになっていたが、最初に別冊化されたのも影丸だったと思う。

 横山光輝作品というと、「少年」連載の「鉄人28号」はTVアニメに引きずられる格好で愛読していたものの、当時影丸の方はほとんどちゃんと読んだ憶えがない。派手な忍術シーンだけを大雑把にチェックしておしまい…というのが、小二くらいの僕の影丸との関わり方であった。

 これを書くにあたって、講談社版のコミックス(全9巻)を読み始めたところ、止まらなくなってしまった(もちろん、そのすべてがイーブックジャパンで電子書籍として入手できるものだ)。いや実に精緻なストーリーなのである。61年春(14号)から66年秋(39号)まで続いた漫画(その後、短編がいくつか発表されている)は、「若葉城の秘密」に始まって、「由比正雪」「闇一族」「七つの影法師」…と9巻仕立てに構成されている。

 主人公の影丸は、服部半蔵が仕切る幕府隠密伊賀忍者の一員という設定で、各巻ごとに対抗勢力の甲賀や野武士衆の忍者軍団が現れる、という展開だ。登場する忍者一派は、やはり「七人の侍」の影響なのか、七人衆のケースが多い。おおむね東海道一帯が舞台になっているようだが、アルプス山地並みの険しい山谷が描かれていて、その辺はTV物のロケでは表現できない、漫画ならではの演出といえるだろう。

 しかし、これは大雑把に読んでいた子供の頃からぼんやりと思っていたことだが、影丸は皆から「少年忍者」とか「子供のくせに」とかいわれているわりに、風貌も言動も実に大人びている。この辺は同時期のTVアニメ「風のフジ丸」あたりと段違いである。少年サンデーという媒体とはいえ、作者・横山がオコチャマ向けに手加減することなく、自ら描きたい本格的な忍者ドラマに挑んでいたことが伺い知れる。とりわけ、いま読んでみて面白かったのは、ボスの服部半蔵の上にはさらに大ボスの松平家の殿様がおり、影丸ら隠密忍者たちは徳川幕府を繁栄させるためのただのコマにすぎない…みたいなことが、現代のサラリーマン社会と重なるように表現されている点だ。たとえば最終巻「影丸旅日記」(イーブックジャパンの電子書籍では第5巻)は、半蔵の命を受けて謀反の疑惑がたつ葉山城下へと調査に乗り出す話なのだが、戦いを終えたエンディングのシーンで影丸が相棒に返すセリフは実に冷めている。

 「われわれとすれば ありのままを報告するだけだ」
 「しょせんわれわれにできることは しらべるというだけだからな」

 会社ぐるみの不正の根っこまでは踏みこむことのできない、中間管理職のボヤキみたいなセリフを言い捨てて、この5年余り続いた漫画は終わってしまうのだ。少年読者にとっては、いささか拍子抜けしたフィナーレといえようが、人の世の性(さが)が描かれていて、五十男の僕は感心した。影丸は、オトナになってこそ再読すべき作品といえるだろう。

 さて、子供の頃から心あたりのある名キャラクターの諸々にふれておこう。まずは最強の敵役といえる阿魔野邪鬼。1巻「若葉城の秘密」(イーブックジャパンの電子書籍では第9巻)に登場したこの男は、トカゲの尻尾の理屈で斬られても3時間後に再生する不死身の身体を持ち、終盤の7巻「邪鬼秘帳」(イーブックジャパンの電子書籍では第3巻)でカムバック、影丸の良き理解者として活躍する。

 薬草栽培の家に育ち、子供の頃から毒草を食べて毒に強い身体を作りあげた村雨五兄弟もファンの多いキャラだろう。これ以来、「村雨」(ムラサメ)の名は、僕らが架空の忍者や探偵劇を作るときによく使ったものだった。

 円月斎、寒月斎…白髪で杖をもったような“陰の大ボス”には~斎の名がよく宛がわれる。「風のフジ丸」にも「風魔十法斎」というその種の悪役が出ていたが、発端は影丸かもしれない。

 と書いてきたところでまだ少々書き足らないことがある。その辺はまた次回。


伊賀の影丸
『伊賀の影丸』
横山 光輝 各315円(税込)

闇一族の目的を探るため、山城の国に派遣された影丸と村雨五兄弟。しかし、すでに待ち伏せていた闇一族のために味方の数馬が倒れ、あやしい武士を追った源太郎は捕われてしまった。闇一族の狙いは何か? そして影丸たちに勝利はあるのか? 忍者大長編コミックス、完結!
コラム関連目録 鉄人28号 原作完全版

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