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インタビュー 2009/12/29
『ゲゲゲ世界戦略』(2) 欧州編


水木しげる作品『のんのんばあとオレ』がフランス最大のマンガの祭典「アングレーム国際漫画フェスティバル」で、ノミネート五十作品の中から、各賞の頂点である最優秀コミック賞を受賞しました。これは日本人初の快挙でもあります。
水木先生も新聞取材に対し、「全然知らない賞をもらってびっくりした。今ごろになってやっとヨーロッパや世界に認められたのだが単に翻訳が遅れただけのことであると思った。しかしうれしいことではある」とのコメント。ご本人もびっくりですが、日本中の水木作品ファンや全国のマンガ読者もびっくりです。
そこで大の水木作品愛読者の一人でもある夏目さんになぜ『のんのんばあとオレ』が欧州で最も名誉な賞を受賞したのか聞いてみました。


●『のんのんばあとオレ』がフランス人の心をわしづかんだ理由

――フランスで受賞したということはマンガがアートとして認められたということでしょうか?

そうです。フランスはアートであるか否かが文化の判断基準ですから。僕もフランスでかつて展示会の準備をした時、まずフランスのインテリ層をこまそうと思ってました(笑)。フランス文化におけるインテリ層の力というのは昔から今まで一貫して強いです。これはフランスが先進国でありながら農業国であることと無関係ではありません。マンガの浸透を考えた場合、この国のインテリ層がアートとして認めるかどうかというのは大きな境目になると思います。

――しかし、『のんのんばあ』は日本でも一部のマニアックな読者しか知らないような作品ですよね。

水木作品は世界に受ける普遍性があると確信していました。だから、なんで世界で売れないのかなぁとずっと思っていました。しかし、あの作品の大賞受賞というのはいきなりでしたね。なにせヨーロッパで一番有名な賞ですから。
実は、僕の知り合いでジャン・ルイという編集者が経営している出版社から翻訳出版されました。その彼はマンガ家でもありアーティストでもありますが、商売人ではない。マニアックでとても良い本を作っていますが、売れない本ばかり出版してる(笑)。

――いかにも水木作品を好きになりそうなキャリアですね。

そう。その彼が、フランスのインテリ層に水木作品が受け入れられるにはどうすればいいのかと考えて、ある戦略をたてたんです。フランスにはそもそも、妖怪マンガというジャンルが無いし馴染みも薄い。フランス人読者に馴染みがあるのは自伝マンガなんだと。その伝統に沿って、「まずは『のんのんばあ』を出したんだ」と彼は言っていました。
最初にこの自伝マンガを読めば、水木氏の作風に慣れるし、作中に自然と妖怪が出てくるから妖怪にも慣れる。妖怪というのはこういう風にリアルなものなのだと。そのあとに水木作品を出版していったから上手くいったと彼はいうんですよね。各国事情を考慮したマンガ戦略とはこういうことなのか、と目から鱗が落ちましたね。

そして、実はこの大賞受賞の裏側にはフランスにおけるBD(バンドデシネ)の力も大きく働きました。このひとたち中心に、そろそろ日本マンガをBDが認める水準の文化として認めようという機運が高まっていたんですね。ですから、この『のんのんばあ』の大賞受賞はBDのひとたちが日本のマンガをついに認めたという証でもあったんじゃないでしょうか。
フランスは文化帝国主義とよく言われるように、他国から自国に流入してくる文化に対して、受け入れる前に必ずジャッジをするのがフランス人です。受け入れられる水準の文化、作品なのかというジャッジ。文化意識がすごく高いし、認めるまではすごくうるさい。日本の下町っ子と同じで認めるまではすごく厳しいけれど、いったん認めてしまうととことん受け入れる国です。それがアメリカとは全く異なるメンタリズムですよね。


●不思議の国のドイツ

――次に狙うべきは、EU経済圏でもっとも大きいドイツですか。マンガの市場規模も含めて謎に包まれた国です。

ドイツのマーケットの質は実を言うとよくわからないんですよ。フランス・ベルギーと違ってドイツにはB.D文化がありませんし、文化的な土壌がよくわからないんです。現地の関係者に聞いた限りではドイツではもともとマンガという文化自体がなかったんだと。マンガ以前には、ミッキーマウス、ディズニーものしかなかったんだと。

――マンガ雑誌文化もないドイツで、90年代後半に突如として日本のマンガ単行本ブームが訪れたきっかけは何だったのでしょう?

日本と同じく、この時期のドイツ出版界は不況に陥っていました。そんな不況の時期に、日本のマンガが輸出されたら爆発的に売れたんですね。特にドラゴンボールとか。その後にセーラームーン、ポケモンというアニメ主導でマンガブームが起きました。しかし不思議なのは、そもそもディズニーの幼児モノしかなかったような地域で、なぜ市場爆発がおきたのか。また、現在のドイツの出版社が日本マンガのマーケティングをどう考えているのかもよくわかりません。

――職人も多く伝統的に緻密な文化、精神を好むドイツ人に、緻密な画風という点でアピールするというのはどうでしょうか?

ドイツといっても統一国家になったのはつい最近で、もともといろんな公国があって文化が北と南でもぜんぜん違うといいますよね。みんながみんなまじめで緻密な性格というわけでもなさそうです。そんな意味でも非常につかみどころがない国。水木作品自体が緻密な作品かどうかも検討の余地がありそうですが(笑)、個々の画風や国家としての民族性を考えるのは、あまり有効ではないんじゃないかと思いますね。
じつはドイツは、19世紀に『マックスとモーリツ』という有名な絵本を生み出しました。今でも本屋で平気で売ってます。日本で例えると、葛飾北斎の北斎漫画がまだ一般書店で売れ筋として並べられている感覚ですかね。しかし、20世紀になると不思議なことにドイツのマンガの伝統が潰えます。
ドイツって大衆文化という感じがしませんし、ファインアートは別にして絵は子供のものとして軽視する傾向がありますよね。ドイツでも例外的に、東ドイツの前衛マンガという現代芸術的なマンガはありましたけど、基本的には文字を尊重する文化。駅や標識などにもアイコンというか絵文字がない。

――ドイツの空港の中の標識でも、なんでもかんでも文字でびっしり説明されていて絵があまり使われていないと。

そう。ジャクリーヌ・ベルントさんというドイツからきた研究者が言うには、日本に来て一番びっくりしたのは、なんでもかんでも機械やら動作やらの説明にマンガやら絵がついていることだと(笑)。ただ、ドイツはフランスなどの日本マンガの売れ筋とそんなに違うとは思いませんけれどね。個人的には、水木作品とドイツを結びつけるとしたら『森』というキーワードだと思います。

――確かに、文学や音楽では森をテーマにした名作が多い気がしますね。

そうですね。ドイツは森というものに対してはとても思い入れの深い国ですから。




のんのんばあとオレ
『のんのんばあとオレ』
水木 しげる 各315円(税込)

ガキ大将のゴロズンが丁稚奉公に出され、大阪へ行くことになった。次のガキ大将の候補としてカッパかゲゲが候補になる。ケンカで決めようとするカッパに対し、ゴロズンは肝だめしで決めようと言い出した。のんのんばあがとめるのも聞かず、二人は「たたりものけの家」と呼ばれるお化け屋敷へ…。
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