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インタビュー 2009/10/30
寺沢武一ワールドの真髄はフルカラーデジタルでしか味わえない 
株式会社エイガアルライツ 古瀬学さん


特集 寺沢武一の世界

個性あふれる世界観と、圧倒的な魅力・存在感をもつキャラクターを描き、絶大な人気を誇る漫画家・寺沢武一。と同時にデジタルコミックの世界的先駆者でもあります。
「ブラックナイト・バット」は、寺沢が初めて作画にコンピューターを導入した作品であり、それは世界で初めてコンピューターで描かれたコミックであることを意味する、まさに記念碑的作品です。

今回は、この「バット」制作のウラ側を知ることで寺沢武一ワールドの魅力をさらに深く理解するべく、株式会社エイガアルライツのプロデューサー、古瀬学さんにお話をうかがいました。

古瀬学プロフィール 古瀬学(こせ まなぶ)
株式会社エイガアルライツ 代表取締役
佐賀県佐賀市出身。
元々はソフトウェアのエンジニアだが、漫画家の寺沢武一氏と出会い、コンテンツのプロデュースの領域での活動をはじめる。現在は、自身の会社アールテクニカの経営と同時に、エイガアルライツでは映像・デジタル関係の作品のプロデューサーとして、また、寺沢氏自身のプロデューサーとして活動している。
株式会社エイガアルライツは寺沢武一の著作物の管理・プロデュースをしている会社であり、古瀬氏はいわば「寺沢ワールドのすべてを知る人物」です。


――まず、「ブラックナイト・バット」の見所を聞かせてください

「バット」はとにかくいろいろと実験的な作品で、寺沢作品の中でも一風変わった存在です。寺沢は「バット」を描く以前に既に「COBRA」で成功していたのですが、今度はファンタジーにチャレンジしようと考えました。加えて、主人公を女の子にしたんですね。寺沢作品には魅力的な女性キャラクターが数多く登場しますが、女の子が主人公という設定は、非常に珍しい。その上、エピソードをとてもコミカルなタッチで描き、へんな生き物や変わったキャラクター、かわいらしいものやおかしいものがどんどん登場して面白いことが次から次へと起こる。「COBRA」のハードな印象とはがらりと変わっているんです。なのに、しっかりと寺沢作品としての共通の魅力も持っている。そんな奇妙な世界観を楽しんでほしいですね。

カラーグラフィック
画像上:連載当時のカラーグラフィック。色数はわずか8色。
画像下:電子書籍版「バット」の同じ部分。進化が一目でわかる。

――実験的といえば、コンピューターでの描画ですが。

そうですね。発表時、連載は少年ジャンプでしたが、巻頭カラー部分に世界で初めてコンピューターを使った絵を載せました。今だから感じるのですが、非常に貧弱なコンピューターでした。NECのPC-8801だったと思います。何故そんなチャレンジをしたかというと、当時コンピューターが現れたとき、寺沢はすぐに、絵を表現するツールとして非常に可能性のあるものだと感じ、漫画家としてとても興味を引かれたんですね。
――どんなところにでしょうか。

寺沢は漫画を描くとき、すべてがカラーの映像が目の前に見えていて、それを描きつけていくんです。映像で見えているというのがどういうことかというと、光――つまり目に見える像が見えているということなんです。印刷物を見るというのは反射光、紙やインクに反射した光を見るわけなのですが、印刷物に限らず、基本的にわれわれが見ているものはほぼすべて反射している光を見ているんですね。

しかしテレビやモニターを見るときは透過光、つまり光そのものが目に飛び込んでくるわけです。色の見え方がまったく違い、モニターなら本来の光、本来の色が見える……寺沢にはそのような表現が出来る可能性のあるものとして、コンピューターがとても面白いものに感じられ、それを使ってみたいということで実験的に描いたということなんです。

で、実験的に描いたのはよかったんですが、当時のコンピューターの画像は解像度が荒く、出せる色の数も8色(!)と少ない。ちょっと昔のゲームの画面みたいに見えるわけで、正直言って読者の受けはそれほど良くありませんでした。ですから、「バット」のカラーはその時だけの実験的なもので終わりました。どちらにしろ読者は紙に印刷されたものを見るわけですしね(笑)。絵そのものを再現すべく、モニターを撮影して、それを印刷したりしたんですけども。

――カラーのプリントアウトというのは当時まだ……

おそらく今コミックスで見られるようには出来なかったんじゃないかと思います。また、出版社側からしても、こんな大変なことをやりたくなかったということもあったでしょう(笑)。「バット」は「COBRA」ほど多くの話を出してはいませんが、寺沢作品の中で異色作ということもあって、寺沢ファンで「COBRA」の次に「バット」が好きだという人は非常に多いんですよ。世界観の面白さ、キャラクターの面白さというところがものすごく凝縮されている作品なので、毛色は違えども、非常に寺沢的な作品だと思います。

で、その後も、発表はしないけれど、コンピューターを使った実験を、寺沢は続けていました。そして「タケル」でようやくひとつの到達点というか、成功をおさめました。その技術をもとに、「バット」に着色したものが、今回リリースされるものなのです。

――8色の時代から「タケル」まで、何年くらいですか?

8年くらいです。ようやく寺沢にとって、自分が本当に描きたいものが描けるようになったんです。時代が追いついてきてくれたんですね。それが93年頃のことです。この8年間というのは、コンピューターの歴史の上で、非常にいろいろなことがあった激動の8年でしたね。「バット」を描いた頃のコンピューター環境はもちろん現在とはまったく違っていますが、「タケル」のころになると、実は今とそんなに変わらなくなっています。


作業風景
寺沢プロダクションでの作業風景:作品がここから生み出されていく。
――コンピューターを使った、制作上のお話を聞かせてください。

寺沢はCG漫画家とよく言われますけれども、基礎の部分、つまり下絵は鉛筆などで描きます。普通にコマを割って、線画を描いてしまいます。それをスキャンします。そして、そこからの分担はケースバイケースではあるものの、塗っていく作業はアシスタントが行っています。もちろん、どのように、どの色で塗るかはすべて寺沢が指示します。手直しも寺沢自身がやっています。

使用するソフトはアドビのフォトショップ。塗る作業はすべてペンとタブレットを使っています。仕事場では、ほぼ全員がコンピューターの画面を見ながらタブレットで作業をしていますよ。みんな手元も見ないでよくできるなあと感心します(笑)。背景CGの作成にはシェードやライトウェーブを使っています。割と昔ながらの、使い慣れているものを今でも使っているという感じですね。

「COBRA」を初期の頃から見てきていただければわかると思いますが、やはりいろいろな部分で色の表現などが変化しています。より細かく、より綺麗になっています。もちろんクリエーターとしてよりよい表現を追及しているということがありますが、環境として、ハード・ソフト両面の機能が向上してきているというのも大きいですね。

――コンピューターで描く強みでしょうか。

寺沢の作品は光と影、そこをすごく意識して描かれています。先ほど言った透過光の良さ、というところにつながってくるんですけども、どうしても反射原稿では表現できない部分、それは光なんです。たとえば光が輝くカーテンのようになっている部分とか、紙面で見るのと画面上では全然違います。まったく違う色なんですよね。描いているときはモニターで見ていますから、それがそのまま表現できるということを重要視する点で、コンピューターのいろいろな進化、機能を使っているということになるんでしょうね。

――ということは、寺沢ワールドを真に楽しめるのはデジタルだと。

そうです。寺沢自身もずっと前からそのように言っています。本人が見ている色と同じ色を見てもらえる。もちろん厳密に言えば、モニターの種類の違いなどで色は違ってくるんですけども。

――最後に、寺沢作品の電子書籍版について一言お願いします。

とにかく、これこそが本物である、ということですね。漫画というメディアの特性について考えるとき、紙の本という形態にはもちろん良さはあります。手軽に持ち運んでどこででも読める、非常に気楽にどこからでも読める、などのようなことです。そういう点はいいことなんですが、そこをあえて、寺沢武一は表現にこだわり、モニター上で光によって描かれる色、絵にこだわっています。100%、描き手のイメージが読み手に伝わる。同じものを見ることができる。表現手段として本物である、これにつきます。

コミックスを既に持っておられる方も、是非、電子書籍版をモニター上で見て楽しんでいただきたいですね。これはデジタルでマンガを描き始めた当初からずっと寺沢の言っていることで、われわれもそう思っています。モニターで見て、初めて寺沢作品の真の魅力がわかっていただけると思います。


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