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特選 漫画人インタビュー

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インタビュー 2009/08/22
核の傘から文化の傘へ
東京大学教授 浜野保樹さん(2)


●マンガ原作映画の功罪

―国内映画産業は、マンガ原作依存・制作委員会を主導するTV局によるプロモーション依存の状況と聞きます。 映画・アニメ界の将来を考えるうえで、このような現状についてどのように捉えられているのでしょうか?  

これまでは自由な表現ができるマンガを映像化しようとするとアニメーションが最もふさわしいものでしたが、いまではCG技術の発達もあってアニメーションにするよりも、実写化した方が興行的に有利であるという結果になっています。マンガの「実写」映画化のビジネスモデルができあがりつつあります。アニメーションは子どものメディアで、アニメファンのメディアで、見る人が限定されますが、マンガを実写化すると中高年層やファミリー層など広い層の観客を対象にできます。どんなに優れた作品でも、中高年層はアニメーションを好ん で見る人は残念ながら少ない。

―近年の大ヒットした邦画の半分ぐらいは大手配給会社3社×マンガ原作という組み合わせですよね。マンガの実写化という安定路線の中で、オリジナル脚本映画を作りたい映画人には厳しい状況ですか?

いま、オリジナル脚本の映画なんてほとんどないですね。なにしろプロモーションが難しい。ほとんどの人が年に1、2回しか劇場に足を運ばない中で原作を知らない映画を観に行くことはあまり無いはずです。

―シネカノンなどの独立系はマンガ原作にたよらずにオリジナル脚本でヒットを生んだり映画賞を受賞するなど孤軍奮闘していますよね。

シネカノンはプロデューサーの李鳳宇(リ・ボンウ)さんがとても優秀な方ですし、脚本のクオリティも高くて在日を繰り返し取り上げるなどメッセージ性の強い映画を昔から製作しています。そうしたメッセージ力と質の高さに対する信頼から得たブランドは固定客がついています。自社の映画館という出口も持っていることがなによりの強みで、いざとなれば大手配給会社やシネコンに依存する必要がない。賢明な戦略ですが、他のプロダクションが真似しようと思ってもなかなかできない。
しかし、シネカノン作品を好んで観る映画ファンというのは全体のごく僅か。というよりも正確に言えば自分で作品を見いだそうとする映画ファンそのものがごく僅かでしょう。ほとんどの日本人はジブリファンを含め大ヒット映画のファンですから。

―TV局主導の制作委員会方式で、TV局の自社番組枠で大々的に宣伝をする映画でないと一般の人はなかなか映画館に足を運ばない状況です。しかし、国内で強いマンガの実写映画やTV局のタイアップ映画は、海外の映画ファンにほとんど届いていないのですが。

いろんな理由があると思いますが、まず日本の映画は観る前の約束事が多すぎます。「踊る大捜査線」なんかもそうですが、TV番組を観ていることが前提になっていて、そういう観客には面白い。それに自分たちより、なんらかの点で優れていると思っていないと、その国の映画は観ないと言われています。アメリカは何でも自分が世界一だから、インテリ以外は外国の映画はほとんど観ません。

―浜野先生個人として注目しているクリエイターは?

アニメーション作家の原恵一監督ですね。彼の良いところは自分の実体験から表現していることです。自分の体験から表現しているから人の心を強く打つ。そこには、泣かせてやろうとか、面白くしてやろうといったあざとい作為がありません。彼の最新作『河童のクゥと夏休み』も素晴らしかった。
ところが最近の若いクリエイターは、実体験からではなく自分が昔観た作品、好きだったマンガやアニメから学んできたものを紡いだ作品が多い。彼らが作るものはよく出来ていて完成度は高いけれど、実体験に基づかないから表現に切実さがない。

―第2の原恵一は育てられるものなのでしょうか?

才能は育てて育つものではないですよね。フランスのように政府に生活を保障されたり、学校などで保護・育成されたクリエイターの作品は観客から遊離して、面白くなくなり、評論家のものになってしまうことが多い。日本でも最近のクリエイターはテクニックこそありますが作家として表現せざるをえない必然性が希薄なものが多い。


●MANGAは数少ない日本ブランド

―日本人はなにを考えて映画を作っているのかわからない、どのようなメッセージを伝えたいのかがよくわからないと海外の映画人に言われる理由でしょうか。日本発コンテンツは世界における日本のブランド形成に大きく寄与するという先生の自説からすると痛いことですよね。

海外の方が日本製の商品を使って楽しんだり感動したりすると日本に対して良い印象を抱きます。
昔は日本製商品といえばウォークマンなど高品質の家電製品でしたが、いまやそれはマンガに代表されるコンテンツだと言えます。
確かに、マンガがいくら世界中で読まれても、日本人全員が経済的に豊かになるわけではないですが、海外に旅行したりビジネスをしていくうえで相手が日本に好印象を持っているということが個々人にも影響を与えます。そして、経済的にも文化的にも良いブランドを持っていることは重要。但し現在はそのマンガですらまだまだ限られた一部の人にしか届いていない状況です。
現在の国際社会において、日本という国の発言力や存在感はとても低いでしょう。

―海外メディアにおける日本の情報も年々縮小しているそうですね。

それは現在の日本人の顔や文化、社会というものが他国からはよく見えていないからです。
そうした意味でも、日本のマンガを読んで感動した読者がその作品が生まれた日本や日本の文化に興味を持ちさらに深く知りたいと思うことは自然なこと。これまで日本は、国としてそうしたブランド戦略をやってきませんでした。戦後はずっと、モノや金を海外に提供するという経済支援政策が中心。モノや金は日本の現代社会を直接的には反映していません。やはりマンガなどのPOPカルチャーの方が現代社会の実像や悩みを良くも悪くも反映しています。

―日本のマンガは、よくも悪くも日本の実像が多様に描かれていますね。

POPカルチャーを通して、まず日本というものを知ってもらい、中には好きになる人もいるでしょう。
嫌いなやつの言うことは聞かないけど、好きな人の主張は耳を傾ける。そんな良い関係の中でこそ、我々日本人はこう考え、こう悩んでいるというメッセージが押しつけではない形で海外に伝わるんじゃないでしょうか。そうした意味でも、現代社会のメッセージが含まれた日本のPOPカルチャーを偏りなく届けていくことで、日本というものをありのままに判断してもらおうということ。それでもなお、嫌いであればしょうがない。マスコミでアジアのよく反日的な運動を取り上げますが、それらは極端な例が多く、そういった国でも日本のことを好きなひともたくさんいます。
そしてPOPカルチャーは世界の若者への伝播力が大きい。まだ若いうちに日本の作品に触れてくれれば日本への親和性はこれまでとは比較にならないほど高いはずです。いまの日本政府の中でも、POPカルチャーを通じて外交・経済・文化を総合的に考えていこう機運がすごく高まっています。

―従来の一過性の政策ではなく、イギリスのようにクリエイティブ産業強化を図る必要があるということですか?

それしかないでしょう。日本が将来食べていく道として文化への期待は大きい。イギリスもフランスもアメリカも先進諸国はどこも文化で食っています。「将来、日本は何で食べていくの?」というときにモノや資源への依存がいまのようではないはずです。島国の日本に無尽蔵にあるのは文化だけです。ファッションやソフトや自動車もモノとしてはもう昔ほど売れないでしょう。

―民間企業が単身で海外に売っていく時代は終わったと?

モノとしてみた場合、すでに日本製品は中途半端に価格が高くてアジア製の安い商品にはかないません。家電製品の海外での日本製の優位も揺らいでいます。
商品を買うとき、その国を好きか嫌いかは決定的です。そういったイメージの決定している要因の一つがいわゆるコンテンツというもの。文化をお金に変える仕組みをもっと整備する必要があります。
もしくは海外では売っていないオリジナルを作ること。日本のPOPカルチャー作品が海外でcoolだと言われ始めたのも要するに日本にしかないオリジナルだからということです。マンガはそのシンボリックな存在ですよね。
マンガは個人表現に近いメディアゆえに多様性、オリジナリティもありますからこれからの日本を支えていく存在として期待できるでしょう。それと、映画やアニメ界に比べるとクリエイター個人へのリターンがシンプルですよね。

―アニメは出資企業が多く個人へのリターンが少ないため、制作スタッフは月給8万円からという悲惨な実態をよく聞きますが。

他産業のコンテンツ制作現場はかなり厳しい状況です。
そうした意味ではマンガ市場単体では低迷しているとはいえ、メディアミックスやマーチャンダイジング展開の広がりを考えるとまだ余裕がある業界といえるので、もっと新しい試みにチャレンジできるのではないかと思います。しかしぼんやりしているとかつての浮世絵みたいな事態になります。「浮世絵」も日本オリジナルの文化でしたが、西洋に模倣されつくし「印象派」という美術ジャンルになってしまいました。
日本のマンガもデジタル流通時代において、世界中のクリエイターに模倣されることで同じ運命をたどる可能性が大いにあります。

―「かつて世界のクリエイターに影響を与えたMANGAという伝統表現が20世紀の日本にありました」という昔話になってしまうと。

ですからLike a rolling stoneということで転がり続けないといけません。他業界と比較して、マンガ界はまだ転がり続ける余裕があると思いますので、転がりながら新しいオリジナル表現や演出方法が生まれることを期待しています。


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